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体外受精

体外受精とは、その名のとおり体外で卵子に精子を受精させることをいい、また、その受精卵(胚といいます)を子宮内に戻すことを胚移植といいます。ですから、一般に体外受精と呼んでいることは、正式には体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。よく人工授精と混同しがちですが、人工授精(AIH)とは、単に精液を子宮内に注入することであり、その操作の内容は全く異なり、体外受精の方がより高度で複雑な操作が必要となります。

自然妊娠の成立と体外受精

自然妊娠では性交時射精された精子が腟と子宮を通り、卵管で排卵された卵子と一緒になり受精が成立します。受精した卵は卵管の運動により子宮に運ばれ子宮内膜に接着します(着床)。この時点で妊娠が成立したと判断します。しかし、卵管に問題があったり精子に問題がある場合は、受精がうまくいかず不妊となります。このような方に対して排卵前の卵子を一度外に取り出し(採卵)、特殊な培養液の中で精子と一緒にし(媒精)、受精させます(体外受精)。受精した卵を2~5日間ほど培養器の中で育て(培養)、正常に育った受精卵(胚)を子宮の中へ戻します(胚移植)。これら一連の治療法を体外受精-胚移植法と呼びます。

体外受精-胚移植法は、1978年イギリスのEdwardsとSteptoe両博士により初めてヒトでの妊娠例が報告されました。日本でもその4年後には出産の報告がされ、現在では大病院から当クリニックのような一般診療所まで幅広く行われるようになり、この方法は難治性不妊の治療法として重要な位置を占めています。
2016年には顕微授精などを含めた生殖補助医療で54,110名の出生児が報告され、日本の全出生の5.5%ほどになっています。

では、体外受精はどのようなものでしょうか? それには大きくわけて卵巣刺激、採卵、培養(受精)、胚移植、黄体機能補充の5つのプロセスがあります。妊娠するためには、それぞれのハードルをクリアーしなければなりません。採卵して、もし卵が1つも得られなかったり、卵に精子をかけあわせて培養しても、1つの卵も受精しなければ、それ以上先に進むことはできません。しかし最大の難関は、受精卵を子宮に戻した(胚移植)後に、それがうまく子宮の内膜に着いてくれるかどうかなのです。この着床という現象には、いまだ未知の部分が多く、胚移植後に実際に確かめる手だてはありません。ただ、着床の成績を良くするには、胚移植の前に子宮内膜を厚くすること、きれいに卵割している受精卵を戻すことなどの条件があげられます。正常な夫婦が、排卵日に合わせて性交しても妊娠しない確率が高いのは、このような理由のためとも考えられています。2016年度の全国統計(日本産科婦人科学会)によると 胚移植率(最低1つ以上の受精卵を移植できる率、新鮮胚及び凍結胚を合わせて)は採卵当たり70%、 妊娠率(心拍確認率)は新鮮胚で20%、凍結融解移植で33% 移植当たり生産率(流産しないで分娩までに至る率)は新鮮胚移植で14% 融解胚移植で23%とされています。

Ⅰ.体外受精―胚移植(IVF-ET)の適応

体外受精-移植を受けられる方は「被実施者は婚姻しており、挙児を希望する夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあり、成熟卵の採取・着床および妊娠維持が可能なもの」(日本産科婦人科学会会告)となり、以下の医学的適応のある方です。

医学的適応

1. 卵管性不妊症

両側の卵管閉塞あるいは通過障害が、子宮卵管造影・選択的卵管造影・卵管鏡・腹腔鏡などの検査で診断され、通気通水治療および外科的治療(卵管癒着剥離・卵管形成など)によっても有効性が確認できない場合。

2. 男性不妊症

不妊検査において乏精子症または精子無力症が認められ、その原因究明のための専門医による診察・精査を行い、効果が期待される治療(薬物治療・手術療法など)を一定期間試みたものの妊孕能(妊娠させる能力)の回復がみられず、人工授精(AIH)によっても妊娠成立がみられない場合。

3. 免疫性不妊症

抗精子抗体など不妊原因が免疫的なもので人工授精など代替手段を講じても妊娠成立がみられない場合。

4. 子宮内膜症

薬物療法や手術療法を行っても妊娠成立がみられない場合。

5. 原因不明不妊症

不妊期間が長期にわたり、系統的な検査を行っても不妊原因が特定できないもので、卵巣刺激(卵胞発育促進)やAIHなど、積極的治療を試みたものの妊娠に至らない場合。

Ⅱ.体外受精の実施方法

1.実施者

当院の担当医師 臼井 彰 は日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医であり、日本生殖医学会認定の生殖医療専門医の資格を有しております。

胚培養士(エンブリオロジスト)は、日本卵子学会認定の生殖補助医療胚培養士または日本臨床エンブリオロジスト学会認定の臨床エンブリオロジストの資格を有しております。

卵巣刺激について

体外受精-胚移植では、最終的に2個まで(原則1個)のきれいに分割した受精卵を戻すことが理想的と考えます。そのため、採卵の際に複数の卵を採取する必要があり、排卵誘発剤の内服や注射をして卵胞を刺激していきます。

排卵誘発剤を数回内服、筋肉注射をしていきますと、複数の卵胞(この中に卵が存在します)が発育してきます。この卵胞の大きさと血中ホルモン値を参考に採卵の日時を決定していきます。

超音波で計測した卵胞径が18mm以上、ひとつの卵胞あたりのエストロゲン値が200pg/ml以上に達した時点で、採卵日を決定します。このときの子宮内膜は8mm以上あるのが理想的です。

この際、卵の成熟を促すためにLHサージ(黄体化ホルモンの立ち上がり)が必要です。良い卵が取れるためには、LHサージを的確に起こさなければなりません。しかし、自然のLHサージが起きると、排卵がおきてしまい採卵ができなくなります。そこで、自然のLHサージが起きる前に人工的なLHサージを起こして、採卵する日時を決める方法がとられています。

人工的なLHサージを起こす方法には2つあります。GnRHアゴニスト使用(点鼻薬や注射薬、後に説明するフレアーアップ効果を利用)か、hCG(ヒト絨毛ホルモン)を注射をすることによりLHサージが起こります。場合によりどちらか、または両方を選択することになります。このLHサージ誘発後34時間から36時間で採卵となります。
当院では、現在クロミフェンなど内服薬による低刺激法、アンタゴニスト併用(LHを抑える薬を短期間使用します)による卵巣刺激法、GnRHアゴニスト併用(LHを抑える薬を長期使用します)による卵巣刺激法の3種類を主に用いています。

LHサージを抑える薬 GnRHアナログ( GnRHアゴニストとアンタゴニスト )

間脳から放出されるゴナドトロピン放出ホルモン「Gn-RH」は、 卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌を調節し、FSHの放出により卵が成熟し、成熟した卵はエストロゲンを放出します。これが再びLH-RH放出の信号となり、LH-RHは、今度はLHを放出して排卵をおこします。 排卵後形成される黄体は、 黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌し、基礎体温を高温にします。妊娠が成立すると、黄体は妊娠の継続を維持し、妊娠が成立しないと消失して生理が起こります。このようにいくつかのホルモンが協調して排卵が起きています。

放出されたGnRHは、レセプター(スイッチのようなもの)を介して作用し、ゴナドトロピンを分泌していきます。ですからLHサージを起こさないためには、このスイッチを使えなくすればよいわけです。以前から使用されているGnRHアゴニスト(スプレキュアー、イトレリンなど)はこのスイッチを徐々に押していき 約2週間で全部使用済みにしてしまいます。 その2週間の間はスイッチを徐々に押しているわけですから、一時的にFSHやLHの過剰分泌が起こります。(フレアーアップ効果)この作用は、先に説明した LHサージを起こす目的で利用できます。 また、LHサージが起きなくなるまでには2週間かかります。その目的で使用する場合は、約2週間の継続が必要です。

一方、アンタゴニストは一挙にスイッチを壊してしまうと考えてください。投与後すぐにスイッチはなくなり、LHサージは起こらなくなります。 そしてこの効果は約24時間続きます。

資料提供塩野義製薬

排卵誘発剤の副作用

局所の発赤・腫脹

排卵誘発剤を注射した部位に発赤、腫脹を生じる場合があります。注射を中止すれば自然に治ります。しかしながら、中止すれば体外受精ができなくなりますから、軽度の場合はそのまま場所を変えて注射を続行し、症状が強い場合は排卵誘発剤の種類を変えたり軟膏を処方します。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)  

卵巣過剰刺激症候群とは、排卵誘発剤により卵巣が腫大し、それにより引き起こされた様々な病態を総称してこう呼びます。卵胞は発育するにつれて、その卵胞内にエストロゲンというホルモンを生成します。排卵誘発剤により卵胞がたくさん発育してきますと、大きくなるにつれて多量のエストロゲン(女性ホルモン:エストロジェンとも言います)を生成してきます。人によっては、多量のエストロゲンにより血管の透過性(細胞膜を水や電解質が通る度合い)が増し、血管内の水分が組織内に引かれて体内に貯留してきます。その結果 下肢の浮腫や、重症化するにつれて腹水や胸水を生じてきます。また 血液が濃縮されるため血栓が生じやすくなり、脳血栓や肺血栓を生じる可能性が出てきます。これを予防するために、排卵誘発剤の投与を始めて特に4~5日たってから乏尿(尿量が少ない)、腹部膨満感、下腹痛、胃痛、呼吸困難などの自覚症状があった際には直ちに相談してください。

実際の卵巣刺激法について

1) クロミフェンを併用した低刺激法

クロミフェン(クロミッドなど)は抗エストロゲン作用を持った排卵誘発剤です。月経開始3日目ごろに来院します。超音波で前周期の遺残卵胞のないことと、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、卵胞ホルモン(E2)、黄体ホルモン(P4)を測定、ホルモンの値が安定していることを確認して、服用を開始します。

通常1日1錠を、同じ時間に採卵の予定の決まる日まで服用し続けます。クロミフェンの抗エストロジェン作用は、LHサージを抑える効果があるといわれていますので飲み忘れないようにご注意ください。 その間、月経周期の8日目より隔日卵胞を超音波で観察、血中の卵胞ホルモンなどを必要に応じて測定いたします。採卵日は前述の採卵の基準に達した時点で決定いたします。採卵日決定後、通常 22時と23時にGnRHアゴニスト(スプレキュアーやイトレリンなど)を点鼻し、翌々日の午前8時半に採卵となります。

2) GnRHアンタゴニストを併用した卵巣刺激法

月経周期1から2日目より低容量pillを10~12日間服用し、卵巣機能を整えた後、服用を中止すると3~4日で消退出血が起きます。(場合によりpillの服用はいたしません)消退出血または生理の2日目に来院します。超音波で遺残卵胞のないことと、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、卵胞ホルモン(E2)、黄体ホルモン(P4)を測定、ホルモンの値が安定していることを確認して刺激開始となります。

卵巣刺激は、通常FSH 150IU ~ 300IUから開始します。開始後4日は注射のみ、5日目から卵胞を超音波で観察、血中の卵胞ホルモンなどを必要に応じて測定いたします。卵胞径が14mmに達した時点で、LHサージを予防するためにアンタゴニスト(セトロタイド、ガニレスト)をhMGに併用していきます。採卵日は、前述の採卵の基準に達した時点で決定します。 採卵日決定後、通常21時にhCG筋注、またはGnRHアゴニストを点鼻して、LHサージを起こします。翌々日の午前8時半に採卵となります。

3) GnRH-aを併用したLong法

アンタゴニスト併用法と同様に、月経周期1から2日目より低容量pillを12日間服用
し、卵巣機能を整えた後服用を中止すると3~4日で消退出血が起きます。Long法の場合、pillを8日間服用した時点で診察し、遺残卵胞のないことを確認してGnRHアゴニストの点鼻を開始します。通常1日3回8時間おきに使用いたします。また、pillを服用しない場合、GnRH-aは、体外受精を受ける月の前月の排卵日を3日過ぎた頃より使用します。(前周期の高温期になって3日目から)

生理になりましたら来院していただき、採卵日を想定してスケジュールを決定します。通常、7日間打ちますと充分に卵胞が発育してきます。8割の人がこれで採卵可能となります。1割の人がさらに2日間注射を必要とし、残りの1割の方はさらに注射の必要な場合があります。このような方法は、月経時に先に採卵日を決めておいて、その日に合わせて注射を開始していくことができ、御夫婦がどうしても都合の悪い日を避けたり、都合の良い日に合わせて採卵を行なうことが可能となります。

採卵日は、前述の採卵の基準に達した時点で決定します。採卵日決定後、通常21時にhCGを注射しLHサージを起こします。そして、翌々日の午前8時半に採卵となります。

この方法は比較的安定して卵の採取ができる方法ですが、OHSSを引き起こしやすい傾向があり、注意が必要です。

採卵について

通常、採卵は、各卵巣刺激法を行って卵巣に3個以上の卵胞ができた場合にLHサージを起こし(GnRHa投与またはhCG注)その36時間後におこないます。当院では朝8時に来院していただいて局所麻酔で行いますが、必要な方は診察後に麻酔の前投薬を注射し、血管確保のための点滴を受けていただき、その後8時30分頃より採卵します。採卵は、静脈麻酔下に行いますので痛くはありません。

 培養について

採取された卵と精子はどう処理するのでしょうか?

まず 採卵の際、直ちに採取された卵胞液より顕微下で卵をピックアップし、培養液で満たしたシャーレに入れ、さらにシャ-レは培養器に移されます。採卵された卵は、排卵前ですので、成熟するまでに何時間か培養することが必要です。

精子の採取は当院指定の容器に指定の時間に、院内または御自宅で採取しお持ちください。 採取された精液は、30分間37度の培養器内に置き、液化します。(射精直後の精液はネバネバしていますが、しばらくするとサラサラした液状に変化します)その後、卵と同じ培養液を加え、不純物を取り除きます。 次に、遠心分離器を用いて精子だけを集め、さらに活動性のある精子を選別します。こうして調整された精液は、元の精液より通常濃縮され、運動性も強化されています。

この調整精液を一定濃度になるように卵の入ったシャーレに加えます。(これを媒精といいます) 一方、外来の精液検査で極端に精子数の少ない患者様や、以前の体外受精で受精に至らなかった場合には顕微授精が行われます。顕微授精にはいろいろな方法がありますが、最近主流になっているICSIでは、この調整精液から活動性の高い1つの精子を細いガラス針を用いて直接卵に注入します。

こうして、一晩培養しますと、翌日には受精の証である2つの前核が卵に観察されます。さらに翌々日には、受精卵は2~4つに卵割をしていきます。一般に、その卵割が、均等できれいな受精卵が妊娠しやすいといわれています。

当院では胚培養はすべてEmbryoscope / Timelapse Systemを用いて行なっています。

初期胚のグレード分類 (Veek分類)

胚盤胞のグレード分類 (Gardner分類)

①  胚の進行度による分類
  1. 初期胚盤胞
  2. 胚盤胞
  3. 完全胚盤胞
  4. 拡張胚盤胞
  5. 孵化胚盤胞
  6. 孵化後胚盤胞
② 内細胞塊と栄養外胚葉による分類

胚移植について

胚移植は、新鮮胚の場合 採卵日の2日から5日後に行ないます。採卵のときに移植の予定日をお話しいたします。

実際の処置は以下のとおりです

移植の前に子宮内膜の状態をチェックします。内膜の状態がよければプロゲステロンの筋肉注射があり、その約1時間から4時間後に胚移植となります。胚移植は、通常経腟超音波下で行います。超音波に良く映る細い外套を内子宮口まで挿入し、さらに細くソフトなカテーテルを内筒に使用し、内筒に少量の培養液とともに受精卵を吸い込み(ローディング)、子宮底から約15mmの位置に移植します。移植後 10分間は手術室で、その後病室へ移動して30分から1時間安静にします。これで胚移植は終了となります。

  1. 子宮内膜の厚みおよびの子宮の長さを測定
  2. 外套を挿入、外套から子宮底までの距離を計測
  3. 子宮底から約15mmの部位に胚移植

現在、胚移植に供する受精卵は、分割のきれいな良好な卵の場合、原則1個(最大2個まで)に限定しています。3つ以上戻すと、妊娠した場合、多胎妊娠になる確率が上がるからです。要胎(4つ子)以上の場合、必ずといっていいほど切迫流産や切迫早産となり、30週以前に早産となるケースがほとんどで、この場合、赤ちゃんが死亡したり、助かっても重度の障害を残す危険性が増えます。確かに周産期医療は進歩しましたが、よく報道されている5つ子のケースなどは、大きな障害もなく無事に育っているからニュースになっているのであり、誰もがこのようなラッキーを得られる保証はないのです。このような理由から、移植胚数を2個以下通常1個に限定するのは妥当なことといえます。

黄体ホルモン補充療法

自然周期では、排卵後の卵胞(卵の抜け殻)は黄体に変化し、そこからプロゲステロンというホルモンが分泌されます。このプロゲステロンの働きによって、基礎体温が上昇し高温期となります。この状態は排卵後10~14日間続き、妊娠している場合は、この機能はしばらく維持されます。妊娠していない場合は、黄体は退縮し、プロゲステロンの分泌がなくなり基礎体温が低下し、月経となります。(注:月経開始の頃に基礎体温が低下せずに少量の性器出血がある場合は、妊娠している可能性もあります。月経とは排卵障害がある場合を除いて、基礎体温が高温から低温になり、いつもと同じ量と内容の出血があった場合をいい、それ以外は不正出血であることを理解してください。)

体外受精では排卵が起きる直前に採卵するため、黄体が充分に形成されず、プロゲステロンの分泌が不足し、基礎体温の高温期が不安定になる場合があります。(この状態を黄体機能不全といいます。) この時期は受精卵が子宮内膜にくっつく(これを着床といいます。)時であり、プロゲステロンの分泌が不十分だと、この着床がうまくいきません。このため、胚移植当日より黄体ホルモンの服用、膣坐薬を使用していただきます。黄体ホルモンを測定し黄体ホルモンを注射で補充する場合もあります。また、移植から約1週後に採血してhCGを測定、上昇している場合(着床の確認)は、通常妊娠10週頃までプロゲステロンの投与を継続します。妊娠判定が陰性の時は、プロゲステロンの投与を中止します。すると通常翌日か翌々日には基礎体温が低下し、月経となります。(場合によりプロゲステロンの投与中でも月経になることがあります。) この時、排卵誘発剤により普段より子官内膜が厚くなっているため、月経量が多くなることがあります。まれにプロゲステロンの投与を中止しても、基礎体温が低下せずに無月経が続くと、数日遅れて尿妊娠反応が陽性になることがあります。しかしこの場合、異常妊娠(子宮外妊娠や流産など)のことが多いので、4~5日様子を見て、なお基礎体温が高温のまま無月経が続くようなら、最初の妊娠判定から1週間後に再度受診する必要があります。

受精胚の凍結保存について

受精後の胚は初期胚や胚盤胞の各段階で良好胚があれば凍結保存することができます。凍結保存により、卵巣刺激や採卵を何回も行う必要がなくなり、身体的、経済的負担が軽減されます。 2016年度の学会報告では、凍結胚(卵)を用いた治療は191,763周期実施され43,329人の出生児が報告されています。生殖補助医療には欠かすことのできない有効な方法となりつつあります。

Ⅰ.胚および卵子の凍結保存の医学的適応

  1. 新鮮胚移植後の余剰胚の凍結保存
  2. 1回の凍結胚数を1-2個にすることにより多胎妊娠の予防
  3. OHSSを回避するために胚を凍結保存し、後の周期に移植します
  4. 子宮内膜環境不良の場合に胚を凍結保存し、後の周期に移植します

Ⅱ.胚および卵子の凍結保存の実施方法

胚および卵子の凍結保存の方法について

当院では原則的に良好胚選別後凍結を行いますので、初期胚または胚盤胞での急速凍結を行い厳重な管理のもと保存いたします。

Vitrification法 (ガラス化法) による胚凍結

凍結胚は-196℃の液体窒素中で保存されます。この状態では全ての細胞が休眠し、長期間(半永久的)に保存することが可能です。

胚凍結保存に関する留意点

凍結融解胚を移植することは新鮮胚移植に比べ、胚がダメージを受けることが考えられますが、臨床成績には大きな違いは認められていません。

凍結胚を融解する際に、必ずしも良好胚として得られないこともあります。また、融解胚を用いることによって生まれた児に、特に先天性異常が多いということはありませんが、未だ確立されたものではありません。出生児の長期予後がまだ不明であり、慎重に検討していかなければなりません。

凍結保存胚の期間は半永久的に維持されますが、日本産科婦人科学会(1988年)では、ヒト胚の保存期間は当該女性の生殖年齢を超えないこととなっています。また婚姻関係が解消された場合はすぐご連絡ください。凍結胚は原則として破棄させていただきます。

当院では凍結保存期間を1年間とし、その後 延長を求める場合は、お申し出頂ければ再度相互間で同意書を交わして1年毎の期間で保管管理するものといたします。

胚移植後妊娠しなかった場合や胚移植をしなかった場合、別の周期に凍結胚を融解し移植することができます。ただし、凍結あるいは融解の段階で受精卵が壊れて融解移植できない可能性もありますのでご了承ください。

融解胚移植周期

融解胚を戻すときは、子宮内膜と胚のステージを同調させることが重要です。自然の排卵を利用する方法とホルモン剤で周期を人工的にあわせる方法があります(ホルモン補充周期)

治療周期の副作用について

①抗エストロゲン剤(クロミッド・femara)などの内服による副作用

下腹部痛等の卵巣腫大症状を伴う卵巣過剰刺激症候群(前述参照)、霧視等の視覚症状、発疹等の過敏症状、頭痛、情動不安等の精神神経系症状、悪心、嘔吐、食欲不振等の消化器症状、その他として顔面紅潮、尿道増加、口渇、疲労感等を訴えることがあります。そのような症状が現れた際は直ちに連絡してください。

②注射剤による副作用

排卵誘発剤を注射した部位に、発赤・腫脹を生じる場合があります。これは一種のアレルギー反応であり、排卵誘発剤の種類を変えることにより軽減いたします。

② 採卵時におけるリスク

経腟超音波で見ながらの採卵は安全性が高いものですが、稀に血管や腸を損傷したり腹腔内感染を併発する可能性が考えられます。また、採卵に際して行う麻酔で副作用が起こる可能性もあります。副作用発生時は適宜出血部位の縫合や開腹等の処置を行う場合や、2次救急、3次救急病院への転送を行う場合があります。

④多胎妊娠のリスク

多胎妊娠を避けるため、移植胚は原則1個、最大2個までとしていますが、稀に一卵性双胎のため1個移植で双胎、2個移植で品胎(三つ子)妊娠の起こる可能性があります。

⑤子宮外妊娠

体外受精後の子宮外妊娠の発生率は自然妊娠に比べて高いことが知られています。妊娠判定後は決められた日にきちんと来院してください

 おわりに

ご不明な点、ご質問等ございましたら、外来、不妊学級時に、医師またはスタッフにお気軽にお尋ねください。
1日も早く希望がかなうように協力いたしますので、頑張りましょう。

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